mRNA医薬を用いた、炎症によって生ずる変形性関節症の治療
- 秀之 中西
- 9月24日
- 読了時間: 2分
更新日:10月3日
寺井湧貴君(東京科学大博士課程4年)の、炎症によって生ずる変形性関節症に対するmRNA医薬の可能性を示した研究が、Pharmaceutics誌に刊行されました。
Pharmaceutics 17(10): 1254, 2025
変形性関節症(OA)は加齢と共に軟骨や周囲組織が徐々に変性し、痛みや運動障害を引き起こす疾患ですが、その原因として、外傷や過負荷などのメカニカルな要因による変性に加えて、関節内の炎症が大きく影響することが分かっています。我々は軟骨誘導性転写因子RUNX1をコードするmRNAを用いて、関節不安定性を誘導して、メカニカルな要因によって発生するOAモデル動物に対して、軟骨の変性を抑える治療効果を明らかにしていますが(SciRep 6: 18743, 2016など)、本研究ではモノヨード酢酸(MIA)を用いた膝関節炎症により誘導されるOAモデル動物に対しても、mRNA医薬が効果を示すことを明らかとしました。
治療には抗炎症効果を持つ1型インターロイキン受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)をコードするmRNAを、ナノミセル型キャリアを用いて関節内投与しました。同キャリアは投与部位に炎症を起こさずにmRNA投与することが可能で、関節内投与だけでなく、骨格筋や脊髄、脳などにも、安全にmRNA投与可能であることが分かっています。MIAによって強い炎症を起こしている膝関節にIL-1Ra mRNAを投与すると、関節腫脹、痛みなど炎症によって生ずる症状が有意に軽減しました。一方軟骨変性を抑える効果も一定程度得られましたが、軟骨内の細胞数現象、2型コラーゲン減少といった変化を完全に抑えるには至りませんでしたが、さらにRUNX1 mRNAを併せて投与することによって、軟骨細胞の生存率向上や軟骨誘導能向上が観察されました。
このように2種のmRNAを組み合わせて投与することによって、炎症によって生ずるOAに対して、痛みを抑え、軟骨の変性を防ぐ治療が可能であることが分かりました。mRNAのクスリとしての可能性をさらに高める成果です。






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